夕暮れが深くなり、顔の見分けが出来なくなった頃、若宮は息を切らして善行の元へ走ってきた。
「遅れて申し訳ありません。」
「どうでしたか。」
「いえ…どうも、きな臭いという以外はなんとも。すみません。」
大きな犬がしょげているように見えたので善行は、笑った。
「いえ、僕のために、こちらこそ」
「…残念ですな。夕食の時間は10分ほど過ぎているようです。」
若宮は、笑ってポケットから何かを取り出した。
「食べますか。」
「やきそばパンですか。」
「二月持つそうです。何が入っているかは恐くて聞けませんが。まあ、慣れればうまいと思いますよ。」
「…戦士の分はどうなんですか。」
「は、自分の分もあります。」
「もらいましょう。」
善行と若宮は、並んでやきそばパンを食べた。
「残念でしたな。」
「いやいや、こういうのも貴重な経験ですよ。」
「ふふ。 そういえば、今日は技術学校の女生徒と仲良くされていたそうですが。」
善行はやきそばを吹いた。大変汚い。
「ど、どこでそれを。」
「言ったでしょう。下士官は草の生える音を聞き分けるもんです。」
「あ、いや、僕はまだデートの約束を取り付けただけだ。」
「そこまで聞いていませんよ。」
若宮は、不意に笑った。 しばらくその様を見て善行も笑った。
男二人の笑い声が、夜に響く。