小次郎・まりなEXTRA

「小次郎さん、何回も言いますけど、本当にエルディア関連の情報はいくら調べても ないんですよ」
「そんな馬鹿な!あれだけ派手なことやっといて見つからないはずがない!」
 俺、そうつまり天城小次郎はグラスをたたきつける。その反動で酒が少し飛び散 る。俺の様子を見てマスターは渋い顔をする。
 ここはセントラルアベニューのオフィス街にあるとある名前もないバー。俺は今こ こに来ている。何故来ているかって?ま、いろいろ事情があってな。詳しいことは後 ほど話すよ。
 ちなみに今俺が話しかけているマスタ−は、まあわかりやすく言えば情報屋だ。俺 はその昔、贔屓にしていた情報屋を失って以来ここに通っている。
 ここのマスターは一見温厚そうに見えるが実は裏でかなり有名な男だ。人間、見か けで人を判断してはならないと言う見本みたいなものだな。
 情報の質もかなり高い。信頼できる奴だ。
 マスターはコップを磨き終わると裏返しにしておく。
「小次郎さん、何でそんなにエルディアにこだわるんです?たかが中東の小国に?」
「・・・・」
 俺はマスターをにらむ。それを見たマスターは肩をすくめる。
「すいません、単なる社交辞令ですよ、気にしないでください」
 そう、情報屋は情報を提供するだけの存在であって、それ以上でもそれ以下でもな い。クライアントのプライバシーには干渉しないのが暗黙の了解だ。
「じゃあ後、ペンタゴンの方は?」
 言わなくても分かると思うがペンタゴンとはアメリカ国防総省のこと。
「こっちも、知る限りのパイプを調べたのですけど・・・・いっこうにかかりませ ん、おそらく軍事最高機密にでもなっていると思います。そうなると奴さんのセキュ リティーは半端じゃないですよ、お手上げです」
「ふー」
 俺はため息をつく。まさかここまで手がかりなしとは、国を相手にするというのは こうも難しいことなのか。
「すいません、小次郎さん、力になれなくて」
「いや、お前が謝る必要なんて無いさ、こっちこそ、無理いって済まなかったな」
 そういうと俺は立ち上がる。
「酒の代金はいくらだ?」
「いりませんよ、せめてものお詫びです。今日はおごります」
「そうか、じゃな」
 そういうと俺は店の外に出る。
「っ!まぶしいな」
 初夏の夕焼けの太陽が俺の目を刺激する。俺は思わず目を細めてしまう。今は一番 紫外線が多く日が高い時だ。
 そして店の外にあるベンチのようなものに座る。
「・・・どうする・・・・これではどうしようもないぞ」
 俺はしばし考える。しかしあの情報屋でも手に入らなかったぐらいだ。俺がどうこ うできる問題ではない。
「しょうがない、事務所にでも戻るか」
 俺はそうつぶやくと立ち上がり、事務所の方に向かった。


 天城小次郎が情報屋に立ち寄った時刻より半日前PM10:12


「シャトーラトゥールでございます」
 おしゃれな雰囲気のフランス料理店。そこのとあるテーブルにワインが運ばれてく る。そこのテーブルに座っているのは中年の男性と若い露出の高い服を着た女の人。
一見すると不倫カップルのようにも見えるが・・至って本人達は気にしてない様子 だ。
 グラスに注がれるワインをじっと見つめる。
 そして注ぎ終わると下がっていった。
「ふーん、おしゃれで良い店じゃない、本部長がこんな店知っていたなんて意外だ わ」
「そうかい?前に香川君と一緒に来た店なんだがね」
「あら、それのろけ?」
「そんなんじゃないよ!」
 私の、そう法条まりなの冗談が混じった会話に本部長はマジになって返してくる。
かわいいんだから。
「それはともかくとして、本部長、ここ、安いんでしょうね?公務員が安月給、安 ボーナスなの知っているでしょ?」
「ハッハッハ、分かっているよまりな君、部下にたかろうなんて思ってないさ」
「なーにいってんのよ!たかったくせに、あーあ、せっかくならダンディのおじさま と来たかったわよ!何でこんなさえないおっさんと」
「さえないおっさんって。一応君の上司なんだけど。それにそれは勘弁してくれ よー、僕だって何だっけ?天城君だ。彼の銃刀法違反をもみ消すのに一役買ったし、 君が天城君に渡したのも見逃したんだよ−、ばれたら免職だよ僕は」
「それは分かっているけど」
「ならこのはなしはしまいだ」
 強引に話を終わらすと本部長はワインを口に入れる。
「ほー、これはおいしいワインだ。まりな君も飲み賜え」
「はいはい」
 そういうと私はワインを口に入れる。あら、本当においしい。弥生と飲みまくるの も良いけど、たまにはこうやっての飲むのも良いわね。
 そう、何で私がこんなおっさんにフランス料理をおごらなくなったのかというと、 とある事件に私に知人が巻き込まれちゃったの。そのときの相手がなんとアメリカ国 防総省!危ないと思った私は銃を彼に貸してあげたんだけどね。それで、今は上司で あるこのおっさんにフランス料理をおごっているのよ。全く、高くついたわ。そうこ んなおっさんによこんなおっさんに。
「まりな君、おっさんおっさんって全部聞こえてるんだけど」
「そりゃそうよ、聞こえるようにいったんだから」
「・・・・」
「で、話は変わるけど・・・」
 私は急にマジな顔つきになる。本部長も何を聞くか分かっている様子だ。
「例の・・ペンタゴンの件何だけど」
「ダメだよまりな君」
「なんでよ!?」
「上からの命令、全く相変わらずだよ、アメリカにゴマばっかりすって、あれだけに 日本領度で好き勝手やられて、そしてその処理は日本にやらせて、そして肝心なこと は何一つ教えて貰えない。全く日和見主義もいい加減にしてもらいたいね」
 本部長はずいぶん怒っている。なーんだ。
「というわけで僕は上からの命令を無視するよ」
 しれっという本部長。
「何だ、そんなことなら早くいってよ」
「便宜上ダメだといっておかないと後で困るだろ?」
 いたずらっぽく笑う本部長。全く、相変わらずなんだから。
「といってもねまりな君、僕も詳しいことは知らされていないんだよ」
「それでも良いわよ、私は先の事件のあらすじほとんど知らないのよ、最初から話し て」
「うむ、わかった」
 本部長は一つ咳払いをすると話し始める。
「ことの発端はすべてアメリカからさ、日本のフリーライターが我が国の重要なもの を持っている返せと」
「ずいぶんと乱暴ね」
「それでその任務が我々に回ってきたという訳よ」
「そのライターって・・」
「君も知っているはずだ。柴田茜、彼女も例の事件の犠牲者だよ」
 私は思い出す。おじさま、桂木源三郎とディーブのアジトに乗り込んだときに拷問 されていたあの女の子か。
「で、そのライターは今」
「大丈夫、平和に暮らしているようだよ」
「そう・・・よかった・・」
 私は胸をなで下ろす。女にとってあんなことは死にたくなるぐらいの出来事、おそ らく彼女からあの傷は一生癒えることがないでしょうけど・・・・立ち直っているよ うだったら安心だわ。
「そして彼女はね・・」
 ここで本部長は言葉を切る。
「エルディアの確か彼女を案内した人間から・・・データを受け取ったんだよ」
 私は驚愕する。
「ちょっと、だったら何で?」
「そう、何でアメリカが出しゃばるんだろうね?」
 本部長はあきらめたような顔するとワインを口に入れる。
「ま、あちらさんが付けてきた理由はアメリカの機密情報を奪ったエルディアの人間 が柴田茜に渡したということだそうよ」
 何というこじつけ・・・それよりも呆れるのはそれを了解した日本政府。私たちを 命令している人間がこんなんじゃ情けなくて涙が出てくるわ。
「・・・・・・呆れて言葉も出ないわ」
「全くだ、返せと言いつつ、天城君や柴田君を殺そうとしてくせにね」
「本当に・・・じゃああの二人が助かったのは?」
「ああ、奇跡に近いかもね、上層部の会議があれほど早く治まるなんて思わなかった よ。一方的な会議だったんだろうね」
「はあ・・・」
 思わずため息が出てしまう。アメリカの言いなりになっている姿が目に浮かぶわ。
「だいたい私が知っているそのそんな所だが・・・・おそらく・・・」
 そう・・・・・・おそらく・・・・・・・・。
 私はこのときある決意をした。


 セントラルアベニューから歩いて十分弱。 俺は自分の事務所のドアの前に立つ。
思えばここにもすっかりなじんでしまった。今では大切なマイホームだ。
 もう夜は暮れかかっている。
「今帰ったぞ」
 俺は事務所の扉を開けるとそういう。しかし事務所の中からは誰も出てこない。
「あ、そうか、氷室は今日は休むとかいっていたんだっけ」
 そう、今日の朝一に氷室から連絡があり事務所の中の備品を買う、それにちょうど 良いバーゲンがあるから今日は休むと言うことだったのだが・・。
 しかし備品だけ変えてもこの雰囲気自体どうしようもないと思うのだが・・。
「だーれだ?」
 その瞬間俺の視界は真っ暗になる。どっかで聞き覚えがある女の声・・・おかしい な俺は一度聞いた美人な女の声は絶対に忘れない自信があるんだが。
 あーそうか、この声は全然いい女の声じゃなかったんだ。だから忘れたんだ。なー んだ良か
「まりなウルトラキーーーーーーーーーーーッッッッッック!!!!!!!!!! !」
「うがあ!!!!!!」
 俺は吹っ飛んでそのまま机に頭をぶつけてしまう。
「いてーーー!!」
「はろはろー!!ずいぶんな言いぐさね小次郎、全部あえて聞こえるようにいってく れてありがとう」
「あいたたた」
 痛みが引くとようやく俺は立ち上がる。
「何しに来たんだまりな?」
「ちょっと私用よ」
 そういうとまりなは俺の目をじっと見つめる。いつになく真剣な目だ。
「ちょっとはなしたいことがあるの、私の部屋に来て」



 そして俺はまりなの家に行くこととなった。
    俺はまりなの家のソファに座る。そしてその対面にまりなも座った。
「ずいぶんと暴れたみたいね、本部長が感心していたわ」
 唐突にそんなこと言い出すまりな。予想はしていたが・・・前のアメリカ国防総省 に襲われたときのことか。
 そう、それがエルディアに関わっていたなんていってマスターに聞いていたという わけさ。
「ああ、一応スカウトされたけどな」
「何で断ったの?」
「別に、面倒くさいしな、俺は今の探偵稼業に満足しているんでね」
「ふーん」
 そういうとまりなは一息つく。そしてつぶやいた。
「小次郎、あなたのあの事件に関することを全部教えて、私もあなたに私の知ってい ることを話すわ」



 こうして俺らはお互いに知っていることを話し合う。そして話し終えたとき、俺と まりなは・・・苦虫をかみつぶしたような・・・やりきれない思いを抱えていた。
「やはり・・・真弥子ちゃんが関わっていると見てまず間違いないかしら」
「ああ、それに関しては俺も同意見だ」
「くそ!」
 俺はテーブルをたたく。
「何であいつをゆっくり寝かせてやれないんだ!あいつには何の罪もないのに!」
「・・そうよ、許せない!」
「まりな、どうにかならないのか?国家公務員なんだろ?」
「・・だめよ、先も話したとおり日本はアメリカの言いなりになっている。私の力で はどうしようもできないわ」
「・・・・」
 俺らは黙り込む。
「おそらく、今後何らかの形で動くと思うわ、私たちには・・その動向があるまで待 つしかないわ」
 まりなは絞り出すような声でつぶやく。そういえば、真弥子を見送ったとき、一番 泣いていたのはこいつだったな。意外とこいつは優しい奴なんだよな。
 俺はそっとまりなの肩に手を置く。
「小次郎?」
「元気出せ、俺もお前と同じ気持ちだ、だからもし動きがあったら真っ先に俺に知ら せてくれ、俺も加勢する」
「・・・うん、ありがと小次郎」
 ちょっといい雰囲気になりかけたそのときいきなりまりなは立ち上がる。
「ど、どうしたまりな?」
 そしてまりなは酒の瓶を持ってくるとどんと置く。
「飲みなさい小次郎」
「へ?」
「私の酒が飲めないの!?飲まなきゃやってられないわよ!!」
 そういうとまりなはラッパ飲みでごくごく飲む。
「お、おいまりな、そんなにのんだら・・・」
「うっさい!それとも何?あんた飲めないの?」
 馬鹿にしたように見るまりな。
「何だと!そんな訳あるか!!」
「だったのみなさい!!」
「よーし」
 そういうと俺はまりなから瓶を受け取りラッパ飲みする。
「おおー、やるじゃない小次郎、私も負けてられないわ!!」
 まりなもまた新しくあけると飲み始める。
 こうして夜は更けていくのであった。
 だが、この物語はこれでは終わらない。
 まりなの家に向かう一人の女性。背は比較的高く、端整な顔立ち。キャリアウーマ ンという感じのかっこいい女の人だ。
「今日は仕事が速く終わったからな、久しぶりに親友の顔でも拝みに行くか」
 その女性はまりなの家につくとチャイムを鳴らす。
 しかし誰も出ない。もう一度チャイムを鳴らす。
「ふあーい、何よ、法条まりなでーす」
 その声にその女性は驚く。
「ま、まりな!?飲んでいるのかお前?」
「あらら、この声は弥生じゃない、良いところに来たわ、あなたも一緒に飲みなさい !!」
「ああ、そのつもりで
 といい終わらない家にドアが開く。その瞬間その女性、つまり弥生は驚いた。
「ま、まりな、お前なんて格好してんだ?」
 そう、まりなはほとんど胸がはだけていて凄く露出が激しくなっている。そしてそ のまりなの後ろから一人の男性が出てくる。
「なーんだよまりな、おたのしみのさいちゅうにー」
 そういって出てきた男性との格好、上半身がほとんど出ている。そして今の台詞を 聞いて見て弥生は硬直する。
「よう弥生じゃないか、元気?」
 弥生はあ・・ああ・・・という顔をしていて何もしゃべろうとしない。
「なんだ弥生、俺様が挨拶してやってんだぞ、なんかいったらどうだ?」
 小次郎は機嫌良く話しかける。だが弥生は何も言わない。


「どうしたのよ弥生、なんか変よ?」
 そのとき弥生の目に見る見るうちに涙が賜ってくる。
「な・・・何だよ・・・・そういうことかよ・・・・・隠さなくてもいいじゃないか !!」
 突然叫び出す弥生。二人はびっくりする。
「何がお楽しみだ小次郎!まりなもまりなだ!小次郎と私の関係知っていて!!」
 まだ分からない二人。
「二人がつきあっているならつきあっているでちゃんと私に話してくれよ!!」
 その瞬間
「ああーーーーー!!!!」
 叫びだす二人。酔いが回っていて弥生が誤解していることに全然気づかなかったの だ。
「誤解よ弥生!!いい?こいつはスケベで女ったらしで節操無くて、女の敵よ!こん な奴とつきあうわけないわ!!」
「なにー!それはこっちの台詞だ!お前みたいな軽くて誘われただけでほいほいつい ていっちまうような尻軽女はこっちから願い下げだ!」
「なによ!!」
「なんだよ!!」
 にらみ合う二人。
「私の目の前でいちゃつくなよ!!」
「どこがじゃい!?」
 思わず声がそろってしまう。
「ほら!息がぴったりじゃないか!」
「こんなのがぴったりな分けないわ!!」
「そうだぞ弥生!」
「ほら!いつの間にか意見あってる!!」
「う!」
 思わず言葉に詰まる二人。それがよけいに拍車をかけたようだ。
「前から、お前ら二人、息が合うんじゃないかって思ってたんだ・・じゃあな二人と も!結婚式には友人代表で呼んでくれ!」
 そういった瞬間弥生は走り出す。
「まずいわ!追うわよ小次郎!」
「言われなくても分かってる!!」
 こうして弥生を追いかける二人。結局弥生を納得させるまで二人掛かりで一週間も かかりましたとさ。

ちゃんちゃん
  終わり