「不思議な夜」
セントラルアベニューからのはずれにあるとある倉庫街。 倉庫街といえば聞こえがいいがそのほとんどは寂れており今は使われていない。よ く見ると倉庫自体の傷みも激しく大きな地震があれば一発で壊れるようなそんな感じ さえ受ける。 そしてそこの一つになにやら看板がある。そしてそこにはこう書いてあった。 |
![]() |
そしてその中からなにやらいびきが聞こえてくる。 「ぐーーーーーぐーーーーーーぐーーーーーー」 十分後 「は!!」 俺はソファから飛び起きる。そして頭をかきむしる。 しまったうっかり寝てしまった・・・。 俺はあたりを見渡す。そして時計に目をやる。時刻は午後6時を指していた。 「もう午後6時かよ・・」 俺は自分に呆れる。そう、俺の名前は天城小次郎。ベイサイドに事務所を構え格安 の家賃から比べ物にならない広さを持った事務所を持つ一流の探偵だ!ハッハッハッ ハ! しかも冬はすきま風がひどくて寒くて寝れないし、夏は夏で夜の暑苦しさは天下一 品、なんて言ったって元倉庫だからな、風通りが悪いので相当な物だぞ。 やめよう。 でも住めば都。今はなかなかこの事務所も気に入っていることは気に入っている。 今はちょうど秋の頃。別に暑くもなく寒くもなく一番いい時期だ。 むろん俺様は天才だから熱いだの寒いだのはすぐに慣れてしまうがな。 ・・・・・・いつかエアコンを買おう。 俺はソファにもたれかかる。 何故俺がんな時間まで寝てしまったかって?それは浮気調査のせいだ。 依頼内容は妻の浮気を調べて欲しい夫からの依頼。 浮気調査のクライアントは女性が圧倒的に多いのだが、ここのところ男も増えてい る。 よく浮気調査はゴミのような仕事を言われているが事はそう簡単ではない。浮気は 離婚へ、離婚は訴訟へと発展するため俺ら探偵が書いた報告書や写真は裁判で立派な 証拠にもなる。 それに浮気調査とはホテルにしけ込む現場を撮ればいいというわけではない。その 後も何回も尾行して、何回も関係があることを突き止める。これで訴訟の際に出来心 でしたと申し開きが出来なくなる。 カップルの待ち合わせは午前様が普通だし。徹夜になるのが普通。よく一日で終わ るなんて言われているがあれはとんでもない、もし本当にそんな探偵事務所があるな ら、それは悪徳の詐欺探偵社だ。 しかし、依頼料をふんだくるだけふんだくってろくに捜査もしない探偵社なども存 在することも確かである。 クライアントは良質の探偵事務所を探すことが必要となってくる。 まあでも、ただ単に浮気しているところだけを突き止めて欲しいというクライアン トもいるのでこの場合はその男の事、何時が怪しいとかを詳しく聞けば、一日で終わ らなくはないが・・。 そんなこんなで仕事が終わり、そして報告書を作成し(氷室にやらせた)クライア ントへ渡す。それからどうなっ たかはしらん。それが探偵という物だ。 それにしても・・・・・・・・・無駄に人生を使ってしまった。 ただだらだらと時間が過ぎていく・・・俺はこのまま年をとって死んで行くんだろ うか? そこまで考えて俺は頭を振る。 ちっ、何考えているんだ。俺らしくない。 そのとき俺はあることに気づく。 「雨・・・やんだのか・・・」 俺が寝るときまで降っていた雨は今は降っていないようだ。音が聞こえてこない。 暇だな・・・・する事がない。 そのとき俺は人の気配を事務所で感じる。 「?」 俺はあたりを見渡してみる。誰もいない。 「気のせいか・・・」 俺は視線を戻す。そのとき扉が開いているのが目に入った。 「!」 俺はそこにいたある人物にびっくりする。いつのまにか女の子が今にも泣き出しそ うな顔で立っていたのだ。 「・・・・」 俺は呆気にとられて何もいえない。向こうの方もひっくひっくと言うだけで何も言 わない。 「・・なあ・・・・どうしたんだ?」 我ながら間抜けな質問だと思ったのだがこんな状況から出る言葉なんてそんな物 だ。 少女は俺の問いにこう答えた。 「おじちゃん・・・・・探偵だよね・・・・・・・お父さんお母さんを・・・・助け てあげて・・・」 「ほら、飲め」 俺はお茶を勧める。少女はそれをゆっくりすする。 「どうしたんだ?父さん母さんを助けてくれって・・詳しく話してみてくれないか」 俺は少女に尋ねる。本来もめ事などごめんなのだが・・・・なぜだか知らないが今 回は協力してやる気になったのだ。 「あ、あのね、お父さんとお母さんがね、さい、かいは、つちくにいるの」 「は?・・・・・・ああ、再開発地区か・・」 再開発地区とはセントラルアベニューのはずれにある所、再開発地区とは政策に よって住民がほかの所に引っ越されその地区を再開発するという名目で立ち上がった のだが・・。それが途中でとん挫、今は捨てられた街ゴーストタウンとなっている。 捨てられたか・・・何か今の俺のようだ・・なんて思ったりして。 それにしてもあそことはな・・・正直あそこは行きたくない、治安が悪い上に薄気 味悪いところでもあるのだ。 しかし・・・あそこにいるとは・・・この少女の両親は何をやっている奴なんだ? 「お願い・・」 少女は懇願するような顔で俺を見る。このとき俺は違和感を感じる。違和感という のはこの少女に対してではなく自分に対して、受けてやろうという気になる。何でだ ろう?こんなことは初めてだ。 「ああ、分かった、どこにいるか案内してくれ」 「うん」 少女は意外とあっさり了承する。本来こんな状態で道など覚えているはずもないの だが・・だが俺は特に気にならなかった。何でだろう。この子に対して勘が働かない のだ。 再開発地区に到着した俺、あたりはしんと静まり返っている。物音一つ聞こえな い。幽霊が出ても全然不思議じゃないところだ。俺が幽霊が苦手というわけではない が・・実際見たら腰抜かすと思う。 それにしてもこの複雑な経路をこの少女は難なく進んできている。まるでここに住 んでいたように・・。 いや、そんなはずはない、俺の記憶ではここが見捨てられたのは五年ほど前、この 少女はおそらく六歳ぐらい、どう見ても記憶があるとは思えない。なら何故・・・・ そして彼女に案内されたところは寂れたマンション、いや、ちゃんとしていた頃は それなりのマンションだったんだろう。中流家庭ぐらいのマンションか? 「こっちよこっち、おじちゃんついてきて」 「おい、俺はおじちゃんじゃない、おにーさんと呼ぶんだ」 「うんおじちゃん」 「・・・・」 俺はあきらめることにした。 そして彼女はマンションの部屋の中に入っていく。そしてそこのリビングで止まる とくるりと俺の方を向いた。そして壁の方を指さす。 「ここにいるの、助けてあげて・・」 俺は少女のいった方向を見る。しかしそこには誰もいなかった。 「?何をいっているんだ?誰もいないぞ」 「いるの」 少女はそれだけいうと口を閉じてしまう。俺はさすがに気味が悪くなった。しかし ここで途中で投げ出すわけには行かない。それは俺のポリシーに反する。 俺は言われたとおり少女が指した方向をよく見る。しかしどう見てもそこに人など いない・・・・ん? 「あれ?」 俺はあることに注目する。よく見ると壁の色が若干違う。もう壁紙ははがれている がそこだけ色が違うのだ。 「どういうことだ?」 俺は考える。一カ所だけ違う壁の色・・そして謎の少女の存在、そしてその少女が その壁を指し示す。となると 「壁の中に何かがあると考えるのが普通か」 俺はそう考えると周りに何か棒みたいな物があるかさがす。そしてうってつけの鉄 パイプがあった。そして俺は思いっきりそこの壁をたたきつける。 カーンと音がする、そして壁にひびが入った。思ったよりももろそうだ。俺は立て 続けに壁を殴打する。 そして バコ!!!!! ひびが限界まで来て思いっきり壊れる。俺は鉄パイプをおいて一息つき、あいた穴 を見る。 「!!!!!!」 俺はその瞬間驚きで動けなくなる。壊れた壁の中からは骸骨が、分かる限りで三体 埋められていたのだ。 「おい、これがお前の・・・・」 俺は少女に話しかけようとする。しかしそこには誰もいなかった。 「・・・・」 この骨を見たときからおそらくはと思っていたが・・・・しかしこのとき俺は不思 議と恐怖を感じなかった。それどころか安堵の気持ちになる。 そして俺はリビングにある物に目が止まる。写真立てだ。俺はそれを見てみる。 そう、そこには両親に囲まれた・・・・俺に依頼してきた少女の写真が写っていた のだ。 その時、俺は思わず笑ってしまったのだ。不謹慎なんだろうが。 「ばかばかしい・・・・でもそんなこともあるのか・・・・・」 俺は何ともいえない気分になる。現実的にはあり得ないことだ。だけど・・・・・。 俺は写真がたててあった後にある物を発見する。 それは五百円の硬貨だった。 俺はそれを拾う。 そして骸骨に話しかける。 「おいおい、探偵に依頼するのは最低でも十万ぐらい必要なんだぜ」 「でも、今回はこれでよしとするぜ、最後まで俺が面倒見てやるよ」 俺はそういうと携帯を持ち出し、警察へと連絡した。 そして後日、別の事件で殺人事件で逮捕された犯人の余罪を追及した所、彼女の家 族を殺人したと自供。再逮捕した。そしてさらに事件は大きくなり、その事件が発端 となる、それを指揮した某党政治家も浮上してきた。 警察は裏をとりそれを起訴する。本来政治関係は政治家が裏に回り公にしないのが 普通だが、今回はいきなり突きつけられたことで手の回しようがなかったのだ。 党はその政治家を除名、観念したのかその政治家は辞表を提出。その瞬間に不逮捕 特権はなくなりその場で警察が逮捕した。 動機によると彼女の父親は建設省の人間であり、たまたまその議員に再開発の着手 に関してのリベートをもらっていることを知って公にしようとした。 それをおそれた政治家は今回逮捕された男に彼の殺害を依頼、それと同時期に計画 が頓挫したことを知ると、漏洩をおそれ家族をも殺害、そして壁に塗り込んだとい う。 誰もここに来なかったのでばれなかったというわけだ。 しかし馬鹿な奴だ。いずれ気づかれるに決まっているだろうに・・。 それにしてもかわいそうなのはあの家族、あの写真を見る限りではとても幸せそう な家族だった。 あの家族は死ぬべきではなかった。 「へぇ、そんなことがあったの」 氷室は俺に話しかける。 「ああ、あまりにも印象に残った出来事なんでな、あの日のことは今でも忘れていな い。なんといっても、独立して一番最初の仕事だからな」 そういうと俺はそっと、墓の上に花を置く。 その後、遺体は家族に引き取られ墓が建てられた。俺は今その場所にいる。今の時 期になると俺は墓参りに来て花を添えている。 「にわかには信じがたい話さ、実際に体験した俺でさえ疑いたくなる。それにしても 何であの少女は俺を選んだんだろうな?探偵ならほかに腐るほどいるだろうに」 「さあね、でも、選んだのはあの子なりの理由があったと思う」 「そうだな・・・」 俺は天を仰いだ。 「さて、そろそろいくか」 俺は氷室を連れて歩こうとする。 そのとき、誰かに呼ばれたような感じがする。 「?」 俺は振り向く。しかしそこにはもちろん誰もいない。 「どうしたの?」 氷室は俺の顔をのぞく。 「いや・・なんでもない」 「ん」 そういうと俺らは歩き出した。 初秋の風が俺の頬をなでる。すがすがしいとても気持ちのいい空だった。 |
![]() |