本部長想いの果てに![]() |
今日は朝から雨が降り続いていた。 当分やみそうにない。おそらく一日中降り続けるだろう。 今は11月。もう肌寒い季節だ。そのときに降る雨というのは体が冷え、気も滅入 りあまり好まれるものではない。 だが僕はこういう雨は嫌いではない。策略の中で生きている自分にとって降りしき る雨を見ると。少し落ち着く。 ここは内閣調査室のとある一室。僕こと甲野三郎が使っている部屋だ。 「ふああーーーーーねむい」 思わず大欠伸が出てしまった。今は暇な昼下がり。忙しいことで有名な内調のほん の一時の休息だ。 その時机に備え付けてある電話が鳴る。内線だ。 「はい、こちら甲野」 「あ、本部長、見城です」 電話の向こうから聞こえてきた声は見城陽一。私のかつての部下、法条まりなが育 て上げた愛弟子の一人だ。訓練生時代から優秀でまりな君の評価も高かった。そして 内調の捜査員としてデビューしたのだが、まりな君の言うとおり、仕事を着実にこな していく優秀な捜査員。任務達成率もまりな君には及ばないにせよ高い方だ。まあ、 任務達成率99%を超えるまりな君と比べるのは酷だが。 「おう!見城君か!どうした?何かトラブルでも?」 「・・いえ、つい先ほど殺人事件の犯人を捕らえましたのでその報告です」 申し訳なさそうにしゃべる見城。だいたい任務を帯びている捜査員からの電話は二 種類。任務終了の連絡か、何らかのトラブルか。むろん後者の方が圧倒的に多い。彼 が任務に就いてからまだ日が浅い、その為今回もついトラブルが起きたと思ってし まったのだ。 「何?もう解決したのかね!?さーすが見城君だ!仕事が速いねー」 「いえ・・そんな、運が良かっただけです」 「またまた謙遜しちゃってー、まりな君の教え子にしては謙虚だねー」 「・・・はあ・・」 困ったようにしゃべる見城。彼は真面目で優秀なのだが真面目すぎる部分があるの だ。僕はジョークのつもりでいったのだが彼にはジョークらしいジョークは一切通じ ない。それが長所なのか短所なのかはわからないが。むろん仕事上ではマイナスに なっていないと僕は思う。仕事上はね・・・。 「じゃあ、後の処理は警視庁の連中と一緒にやってくれ、ここのところ仕事続きで疲 れただろ?終わったらそのままあがっていい、報告書は明日でいいよ」 「はい、お気遣いありがとうございます」 「じゃ、また後で・・」 僕は電話を切る。そしてまた外に視線を戻す。また雨は降っている。さすがに外に でている人間は少ない。 ここのところの仕事は順調で特に際だった失敗はない。むろんトラブルはあるが僕 の仕事はそれを処理すること。管理職はそんなつらい立場だ。いくらキャリアとはい え中間管理職には変わりない。そんな事はいちいち気にしていられないのだ。 もっともちょっと前までは頭痛が耐えなかったのだが。 そのとき、また内線がなる。 おっと、内線をとらなければ。 「はいこちら甲野」 「はろはろー」 「おう!まりな君!」 そう、そのかつての頭痛の種はみなさんにはおわかりだろう。任務達成率99%! 天才エージェントの名を欲しいままにしたスーパーウーマン!法条まりな君だ。 「どうしたのかね?また何かやったのかーい?」 開口一番の僕の台詞に彼女は心外だという口調で話す。 「ちょっと本部長、何その言いぐさ、教官職に治まった私が何かすると思ったの?」 「イヤー、君のことだからさ、曲芸撃ちでもして内調の備品を壊したのかと思って ね」 「そうそうそれそれ、間違えて的をつるす機械うっちゃって・・後で備品請求してお いて」 しれっという彼女。そのあまりに脳天気な声に僕は体勢を崩す。 「がくっ!まりなくうぅぅぅん、ほんの冗談で言ったつもりなのにぃ、備品請求する のも大変なんだよ?ただせさえ金食い虫に見られているんだから!どう言い訳したら いいのかね?」 「そうはいってもちゃんと請求してくれる本部長って好き」 「ハハハハァー、ありがとう、光栄だよ」 「で、用はそれだけかね?」 「うん」 「・・・・」 「そういうわけ、じゃーねー」 内線が切れる。ふうー、全く、やっぱり頭痛の種はまりな君だったね。あーあ、な んていって請求したらいいんだか・・。 思えば彼女との付き合いは長い。彼女が、僕も含めてまだ公安第六課に所属してい るときからの付き合いだ。内調に異動するときも一緒なのだから、彼女との縁は相当 なものだろう。 むろん彼女と僕の関係はただの上司と部下ではない。それを超越した関係にあると 僕は思う。 僕は彼女を買っている。天才的な判断力、鋭い洞察力、男顔負けの行動力、そして クソ度胸。どれをとっても超一流。僕は彼女に惚れ込んでいるのだ。おっと、ここで 勘違いしないで欲しいのだがあくまでエージェントととしてであって、異性としてで はないのであしからず。 プライベートでも飲みにいったり彼女の買い物につきあわされたり(むろん荷物持 ち)、端麗な容姿から男性捜査員からの評判もなかなかのものだ。もっとも彼女は中 年男性趣味であり、若い捜査員にはめもくれていないが。 しかし・・・・彼女には決定的な欠点がある。・・いや欠点かな?・・それが長所 につながっているというか・・・僕は彼女を買う理由になっているというか?未だに よくわからない・・・。 が、そのせいで僕は彼女に裏切られたことがあるのだ。こっぴどくね。 そう、あの日も、こんな雨の日だったな。 「警察だ!動くな!」 まりな君が拳銃を構えて部屋の中にいる男達にすごむ。そしてそのまりな君の後ろ にはたくさんの捜査員もまた拳銃を構え部屋の中にいる男達にすごんでいる。 男達は観念したのか両手をあげる。 まりな君はその姿を見るや顎で合図をする。 後ろにいた捜査員が部屋の中に一斉に突入し部屋の男達を確保する。無事解決した と見るや僕はまりな君に近づく。 「ご苦労様、まりな君」 「あ、本部長、お疲れ」 まりな君は先ほどまでの険しい顔つきはなくなりいつもの表情に戻っている。 ちなみにこの部屋にいる男達は麻薬密売組織のメンバーで我々内調やら警視庁やら がやっとアジトを突き止めたのだ。そしてまりな君を筆頭にそのアジトに乗り込んだ というわけ。 「・・・・」 僕は捕まえた犯人達の顔を見る。そして一言つぶやいた。 「また・・・・はずれ・・・・これで三回目か・・・」 「・・・・」 まりな君は僕のつぶやきに何の反応も示さない。ただ確保されて連行されている犯 人達を静かに見ているだけだ。別に何かを期待した訳じゃないけど・・・・。 「それにしてもまりな君、かっこよかったねえ!警察だ!動くな!ってね、思わずし びれちゃったよ」 「あらそう?イヤー、たまらないのよねー、こういうのって、内調の捜査員になって からあまりこんな機会無いから」 「機会ねえ・・・・機会がない、我々が動かないのが平和なのだから皮肉だよほん と、何とも因果な商売をやっているものだ」 「ほんぶちょー」 まりなくんはなにやら冷たい目で僕を見る。うう、そんな目で見ないで。 「おっとすまない、愚痴になってしまったね、この仕事してて愚痴なんていったらき り無いからねー」 「上司が愚痴らないの!全く情けない!」 「ハハハ、強いなまりな君は」 「そうだ、任務の連続ですまないが内調に帰ってから今後の捜査会議を開く、君も参 加してくれたまえ」 「えー?私これからデートなのに」 むくれた顔で文句を言うまりな君。相変わらずだ。 「文句言わないの」 「別に会議になんか参加しなくたって大丈夫なのに」 「それはわかっているが捜査員全体の志気を高めるためだ。今が一番つらいときなん だから我慢してくれたまえ」 「へいへい」 「ふぅぅぅぅ」 大きなため息をついて椅子に座る。捜査会議も終わり、一息つく。 今の僕は機嫌があまりよくない。それもそうだ、やっとつかんだ情報に三回も肩す かしを喰らわせられたのだから。 そう、密売組織のメンバーをとらえたまではよかったのだがあのメンバーはすべて 下っ端、つまりちんぴらと変わらない。路上で見かける怪しい外国人とレベルは全く 一緒。そう・・・トップが捕まらないのだ。組織というものはトップを崩さないと意 味がない。下っ端を何人捕まえても一緒だ。 むろん僕たちも馬鹿ではない。乗り込む際は必ずボスがいるという情報を突き止め てから乗り込むのだ。その情報の信用度はかなり高い、が、そしてその情報は三回連 続で外れている。 ま・・・・・ぶっちゃけていってしまえば・・その原因は何となく分かっているの だ。 おそらく・・・ユダがいる・・・・・僕らの中に・・・・裏切り者が・・・・情報 漏洩・・・・この一連の出来事はおそらくこれが原因だろう。だがこれはあまり考え たくない。だが・・・・・ 「・・・・」 僕はある算段をうつことに決めた。 そして一週間が過ぎる。 「いきなりですまない、今夜突入作戦を開始する」 捜査会議室での僕の発言はどよめきを与えた。無理はない。 「実は昨日緊急に情報が入ってね、突入手順のマニュアルは作成済みだ、これに従っ て行動して欲しい、君たちの活躍を期待している。以上だ」 もちろん急に情報が入ったのは全くの嘘。この一週間はすべての情報が僕のみにく るように仕掛けそれを一切ほかの捜査員に話さなかった。むろんまりな君にもだ。彼 女を疑っているわけではないが万全を喫したい。 そして僕らは彼らが潜んでいると思われる古い今は廃ビルとなっているはずの建物 を包囲する。 「了解しました」 まりな君は無線機を置く。 「本部長、包囲が完了したようよ」 「わかった」 「・・本部長、いつ突入するの?」 「まだ早いな、突入時をいつにするかがこの手の作戦の最大のポイント、これをしく じると相手も我々も死傷者を出しかねない」 「そんなこといっているけど、見つかったら元も子もないわ」 「それもそうだが」 「私に行かせて本部長」 僕は思わずまりな君を見る。そして驚く。なんとまりな君は笑っていたのだ。 まりな君の癖というか特徴というか・・・・笑うのだ彼女は、任務中に、特に自分 の命が危険にさらされているとき。いや、さらそうとするとき。 僕も思わずほほえんでしまう。彼女のこの笑顔を見たときに失敗したことなど一度 もない。ある意味僕の中では勝利の女神の微笑みだ。僕の出す結論はもちろん一つ だ。 「任せたよまりな君。ただ、その五分後には我々も突入する。それと銃声が聞こえた らこれもまた然り、頼むよまりな君」 「任せておいて本部長」 まりな君はそういうとその廃ビルの中に消えた。 そして僕は無線で要旨を伝えると突撃準備に入った。 そしてその三分後 パン!パパパン!! 突然銃声がこだまする。 「いかん!全隊突撃!」 僕の指示で捜査員すべてが廃ビルになだれ込む。しかし パン!パン!パン! 敵も銃で応戦してくる。僕らは急いで物陰に隠れる。 「ふう、まさか日本でこんな派手な銃撃戦をするとはね、長生きはしてみるもんだ」 結構余裕そうに見えるがこれには根拠がある。敵さんは無駄弾が多い、おそらくも うすぐ弾が切れるだろう。 そして僕の予感は的中し僕たちは次第に追いつめていく。 しかしそのとき、悲劇が起きたのだ。 僕の無線に連絡が入る。 「すべて捕らえました!」 「そうか!ご苦労・・」 「しかし・・・・・」 僕は走る。先の無線の内容は敵のボスらしき人物を銃で撃ってしまったというの だ。殺してしまってはダメだ!密売組織の摘発はこれからだというのに全体が見えな くなってしまう。 「容態はどうだ!?」 僕は指示された部屋にはいる。そこには一人の中年の男の死体が横たわっていた。 僕は顔をしかめる。急所に一発、おそらく生きてはいまい。そしてその横にたたずん でいる一人の女性に目がいく。 「まりな君・・・・」 「君がやったのか?」 「・・・・」 まりな君は顔面蒼白状態であり僕の声が聞こえていないようだ。こんな彼女を見る のは初めてである。 「君、まりな、いや法条捜査官は何時から居たんだね?」 まりな君の応答を無理と考えた僕は別の捜査員に聞く。 「自分らが到着したときにはすでに、その瞬間男が拳銃を構えようとしたので仕方が 無く・・」 「・・・・」 僕はまりな君を見る。そうか・・・・・・・そうだったんだ・・・・ 「まりな君・・・・」 僕はまりな君を見つめる。しかし彼女は目を合わそうともしない。 そしてようやく僕の顔を見る。 「本部長・・・・・」 僕とまりな君は見つめ合う。そしてぽつりと言った。 「・・・・・・・ごめんね、本部長・・・・」 「今回のことにはあきれ果てたよ甲野君」 「・・申し訳ありません」 「申し訳ありませんじゃすまないんだよ!!」 僕は今査問委員会にかけられ出頭を命じられ警察庁に来ている。むろん彼女が犯し た罪の責任問題だ。むろん彼女も同席のもと。 「君があれほど言うから法条捜査官の傲慢で無礼な態度も今まで見過ごしてあげたん だ・・・だが、結局は色恋沙汰に落ちたか、所詮女性捜査官の限界というところかな ?」 先ほどから僕とまりな君は査問委員の連中から一時間の嫌みのいわれっぱなし。そ れもそうだろう。元々僕らの評判は芳しくない。僕らをいじめる絶好の機会だ。 全く、口だけは何とでもいえるよ。デスクワークで安全におぼれたキャリア達は本 当におめでたい連中だ。おっと、僕もまりな君もキャリアだったね。 まりな君は先ほどから一言も口を開いていない。 「法条捜査官」 「はい」 ようや口を開くまりな君。思ったより声はしっかりしている。 「君は自分のしたことがわかっているな?」 「・・・・はい」 「ならば免職は覚悟の・・」 「待ってください!」 僕は大声をあげる。突然大声を出したので査問委員の連中も驚いたようだ。 「なんだね甲野くん・・」 「法条捜査官に・・・もう一度だけチャンスを与えてくれませんか?」 僕のこの言葉に会議室は騒然となる。 「何をいっているのか・・我々の理解を超えているが・・」 「麻薬組織はまだ完全に殲滅した訳ではありません」 「まりな君をもう一度、もう一度麻薬組織殲滅の任に当たらせてくれませんか?」 「は!?」 査問委員の全員が呆れ顔になる。まりな君も驚いた顔で僕を見る。 「な、何をいっているのかね?気は確かか?」 「もちろんです。冗談でそんなことはいえませんよ」 「甲野君、君ね、そんなことが・・」 「甲野君」 査問委員の一人の言葉を遮ってある人物が私に話しかける。今回の査問の責任者、 川原君だ。 「一つ・・・わからないことがある」 「え?」 「なんで君はそんなことがいえるのだ?」 「君が法条捜査官を買っていることは知っている。確かに彼女は優秀というレベルで はない、まさにパーフェクトだ。君は彼女とプライベートでも付き合いはある感じだ な、もちろん友人としてね」 「だが今回は彼女は君を裏切ったのだ。君が必死で手に入れた情報をひたすら彼女は 組織の人間に流していた。しかもその男は諜報員であり、密売組織の長という大物。 これで事態はさらにややこしくなる。そして当然君も処分を受けることになる。なの にどうして、なんでそこまで 法条捜査官を買っているのかね?」 的確に、言葉を選びながら私に話しかける川原。それにしても愚かなことを聞くな と思った。そんなこと、答えは一つである。 「部下が信じられなくなったら私は終わりですよ。今回のことがあっても、僕の中 の、法条捜査官の評価は揺るぎません」 シンとなる会議室。さらに僕は続ける。 「お願いします、彼女にもう一度チャンスをください」 そういうと僕は懐の中からある封筒を取り出す。 「辞表です、もし彼女が失敗したら、僕も責任をとります」 僕は会議室を見渡す。みんな口々に何かを話し合っている。その中で川原君が口を 開く。 「・・・このことは・・・上に報告しておく・・・もし許可が出たら・・・動きたま え」 「だが忘れるな?もし今回も失敗したら内調の存在自体が危なくなる、それを念頭に 起きたまえ」 「以上、閉廷だ」 そしてここは場所が変わり内閣調査室。捜査続行の許可はその日の夜に下った。 思ったより早かった。自分の保身しか考えないキャリアだが、今回はすべての責任を 我々に押しつけることが出来るだけあって対応が早かったようだ。 「以上が任務の内容だ、わかったねまりな君」 私が使用している部屋で私から任務の説明を受けるまりな君。今回はあまり口数が 少ない。結構任務説明の時にはいろいろと話すのだが。 「うん・・・わかったけど・・・」 聞いているような聞いていないような顔をするまりな君。むろん聞いていないこと を心配する僕ではない。 「何か質問かね?」 「なんであのとき・・・・私をかばったの?」 僕はまりな君の顔を見る。いつもの通りのまりな君だ。あのときの青白い顔はとっ くに消え去っておりいつものまりな君。だが、若干表情に憂いがある。まりな君は美 人は美人なので知らない人が見たらどきっとするかもね。 「だからいったろ?これぐらいじゃあ君の評価は揺るがないってね、それに・・」 「それに?」 「僕は君に惚れているんだ」 驚いた顔をするまりな君。しかし次の瞬間笑い出した。 「ちょっとほんぶちょー」 「ハッハッハ、そういう訳だ、がんばってくれ、まりな君」 「わかったわ、本部長の首、私がつないであげるわ」 そういって彼女はまた笑う。あの笑い、そう、勝利の女神の微笑みだ。 「おー!頼もしい!」 「では、法条一級捜査官いってまいります!」 「活躍を期待している」 まりな君は外に出る。そしてその後ろ姿を見送る僕。それにしても・・・もう普通 に戻っている。あれほどのことがあったのに・・。 「まりな君は強いなほんっとに、僕にはとうていないよ、あんな強さは」 誰に聞かせるわけでもなく。つぶやく僕。そして外を見る。外は雨が降っていた。 あれから二週間後、麻薬組織の全面摘発に成功。それが評価され僕は減棒処分で済 み、内調も存続することが出来た。 しかしまりな君は今回の事件の制でアメリカへと「栄転」する羽目になってしま う。 そしてその二年後僕はまりな君を呼び戻す。そのときまりな君に課した任務は大使 の娘を警護背よとのこと。 そう・・・μ-101有機ヒューマノイド、御堂真弥子君の事件だ。 あの事件は本当に悲しい事件だった。僕は真弥子君とはあまり接触はしなかった が、いい子であることはまりな君を見ればすぐにわかる。・・・だが彼女は・・・国 王の記憶に操られ数々の殺人を犯すことになってしまう。 そして真弥子君が最後に選んだ道・・・・・。 彼女は今エルディアの王宮のとある一室で眠りについている。彼女はエルディアに 飛び真弥子君のその姿を見送った。僕は直接は関与しなかったが・・・まりな君の ショックの大きさから見て相当悲しかったのだろうと思った。 そしてついにまりな君は僕にエージェントの仕事を辞めることを僕に伝える。トリ スタン号に乗り込む前にも辞表を提出したが僕はその辞表には納得がいかず、いや、 納得いかないといくとか、そういうんじゃないね、何となく彼女を引き留め、そのと きはまだ正体が分からなかったμ-101確保の任務を課すのが一番イイと思ったの だ。 だが今回の辞表、僕はその意志を受け止めた。別に驚きはしなかった。そういい出 すだろうと・・・何となく予感していたのだ。しかし、その次に発した言葉は僕を驚 かせるものだった。 「本部長、私教官になる、内調のエージェントを育てる教官にね、イイでしょ?本部 長」 僕はもちろんそれを承諾。反対意見もあったがまりな君の任務達成率から見て反論 の余地はない。すぐにまりな君は教官という職に治まった。なぜ教官という地位に? ということはあえて聞かなかった。 今はその教官という職業に満足しているように見える。 だけど・・・だけどー、 いつかまりな君はまた第一線に復活してくる。あのまりな君が教官!?そんな柄 じゃないよ彼女は、またいつか復帰するだろう。 僕は時計を見る。まだ暇出来る時間はある。 僕は席を立ち上がった。 ここは内調のエージェントを養成する訓練場。そして今は一人の女性が的に向かっ て撃っている。近々配属が決まる新人捜査員桐野杏子君だ。 「まりなくーん」 「あ、本部長、来てたんだ」 桐野杏子、僕が皆の反対意見を押し切って採用した女の子だ。なぜだか知らないが 彼女はに何らかの感じを受け採用することに決めたのだ。今時無い素直な感じが気に 入ったのだ。 だけどこの性格は捜査員には向かないんだけどね。 そう、彼女はやはりというか何というか、赤点ぎりぎりでこの訓練を乗り切ってい る。だがそんなことは報告書を見ればわかる。そんなことより僕が知りたいのは。 「元天才エージェント、法条まりなの直感?」 「そう、で、本当のところどう?」 このときまりな君がいったのは杏子君には期待していると言うこと。優等生にない 未知数の力を感じ、それこそが命がけのライブを演じるのに不可欠なものだというの だ。まりな君が言うと説得力がある。 そして彼女は面白いことをいった。 「そうね、あのこは・・・うん・・たぶん私が持っているようなウィークポイントが ないと思うから」 「そうか、それはそれで心配だね」 「心配?」 「君はどう思っている知らんが、君のその他を寄せ付けない強みであり最大の魅力 は、案外その弱みとやらにあるのかもしれないよ」 「え?」 まりな君は怪訝そうな顔をする。そうだな実際、あのとき自分の首をかけてまでま りな君をかばった理由は、彼女の弱みを最大の魅力に感じたのかもしれないのだ。 まりな君はまだわからないと言う顔をしている。僕はそんなまりな君の様子が急に おかしく感じてきた。 「ちょっと、本部長、何がおかしいのよ、人の顔見てにやにやして」 「え?僕笑ってた?」 「そうよ、失礼よ」 「ハハ、済まない大した理由はないんだ、さーて、そろそろ休み時間も終わり、僕は 仕事に戻るよ」 「じゃねまりな君」 「うん、じゃーね」 こうして僕は訓練場を後にして仕事に戻る。帰る途中僕はそのときふと外を見る。 もう雨は上がっており雲の隙間から太陽の光が降り注ぎとてもきれいだった。 終わり
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