「ダンディおじさまラブラブゲット大作戦!」![]() |
ピーンポーン・・・。 サン・マンションの一室のドアチャイムが鳴らされる。 ピーンポーン・・・ピーンポーン・・・。 さらに続けて鳴る。少し間を置いて、 ガンガンガン・・・・。 マンションのフロア中に響く音でドアが叩かれる。 「弥生!居るのは分かってるのよ。出て来なさい!」 ガンガンガン・・・・・・・。 向こう隣のおばちゃんが顔を出すが、まりなの形相を見るとすぐに引っ込んでしまった。 「弥生!弥生ってばぁ!」 ガチャン! ドアの鍵が開けられて、弥生が姿を見せる。 「まりなか・・・。朝っぱらからうるさいぞ・・・ふぁ〜」 目を擦りながら大あくびする。 「朝っぱらってねぇ、もう11時よ」 「昨日は忙しくてな・・・あまり寝てないんだよ・・・ふぁ〜」 二度目のあくびと共に両手を持ち上げて伸びをする。 「だからってそんな格好しなくてもいいじゃない」 まりなの指摘で自分の格好を見る。 寝癖の髪に男物のシャツでブラは着けてなく、下はショーツだけのラフな格好である。 「いつも通りじゃないか」 「まあね」 まりなもいつも見慣れた格好なので、深くは追求しない。 「まあ入れよ、立ち話もなんだからな・・・」 二人して部屋に入る。 弥生はあぐらを組んで座ると、早速煙草に火をつけた。 「弥生、煙草吸うようになったんだ」 まりなが意外そうに見る。弥生と知り合った頃はまだ吸っていなかった記憶がある。 「まあな、どうだまりなも?」 火のついた煙草を差し出す。 「パス。健康とお肌の敵よ」 笑顔で答えた。 「そうか・・・」 煙草を少し見つめると、灰皿で揉み消した。 「気を遣わなくてもいいのに」 「いや・・・まりなの言うことにも一理あると思ってな」 灰皿はすでに多くの煙草で埋められている。 「それで、今日は何の用だ?」 久しぶりに会ったというのに、弥生の態度は素っ気無い。 しかし、学生時代から見慣れているので気にはならない。 「ようやく休暇が取れてね、一緒に街に出ようかと思って」 「確かまりなは公務員だった・・・か?」 「う〜ん、まあそんなものかな。ちょっと普通じゃない気がするけど・・・」 「そうか」 まりなは仕事の事をあまり詳しく話そうとしない。だからと言って詮索するのも野暮であると思い、いつも聞かないようにしている。 「弥生はお父さんのお仕事手伝ってるんでしょ?だったら休みくらいもらえるんじゃない?」 「そうでもないんだ。うちの事務所にはパパと小次郎と私しかいないから大変なんだよ。パパと小次郎がいっつも飛び出すから事務は全部私がやってるんだ」 「探偵事務所だっけ?」 「そう、桂木探偵事務所。元々パパ一人でやってたんだけど、小次郎が手伝うようになって、自然に私も所員にされてしまったんだ」 「でもなんか弥生、楽しそうだね」 「そうか?」 「だって、話しながらにやにやしてるもん」 茶化す様に言った。 「パパも小次郎も子供みたいなものだから、私が居ないと何にも出来ないんだよ」 「ふ〜ん、それで?」 「それでって何が?」 まりなが怪しい笑みを浮かべる。こういう時のまりなは性質が悪い。 「小次郎って、弥生の彼氏でしょう?名前を言うたびに口元が緩んでるわよ」 「べっ、別に小次郎とは何も・・・」 慌てて否定する。 「その慌てぶりが怪しいなぁ〜」 まりなが詰め寄る。 「全然・・・怪しくなんかは・・・。おい、まりな、やめろ」 まりなは弥生の上に乗っかり、体をくすぐる。 「正直に話さないと・・・お仕置きしちゃうわよ〜」 「うわっ、ばか、やめろ。そんな所を触るなって・・・ぁん!」 まりなは手を止めようとしない。 「わかった、話す、話すから・・・やめて・・・」 弥生は半泣きで言った。 「しょうがないわね。きちんと全部話すのよ」 ようやくまりなは手を止めて、弥生から離れた。 「もぅ、私はそんな趣味は無いんだぞ」 はだけた胸を隠し、座り直す。 「残念・・・」 まりなが小さく呟く。 「何か言った!?」 「何も言ってないわよ。それより小次郎の事を話しなさいよ」 「分かってるわよ・・・」 形勢はまりなに傾いている。 仕方なく、小次郎との出会いや経緯を順番に話した。 「なるほどね〜」 まりながしきりに頷いている。 「何がるなほどなんだよ」 「弥生ってこう見えても尽くすタイプだからね、苦労するわよ」 「こう見えてもっていうのが引っかかるんだけど」 「まあ気にしない、気にしない。なんか会って見たいな、弥生の彼氏に」 「なに!それはだめだ!」 弥生は立ち上がって言った。 「何よ、急に大きな声を出して」 「いや、その、すまない」 突然の事に弥生も赤面して座る。 「いいじゃない。友達なんだから紹介くらいしてよ」 「いや、だめだ。小次郎はまりなが思っている様な奴じゃない」 「何よ、見るくらいいいじゃいなのよ」 「ぜーったいだめ!」 弥生は頑固に断る。 「はは〜ん、分かった・・・」 「何が分かったんだよ」 「弥生ってば、可愛い!」 「だから何を言ってるんだよ」 「小次郎を独り占めしたいんだ〜」 「そっそんな事・・・。ただ、まりなが危ないと思って・・・」 「小次郎を私に取られるかもしれないと思ってるんじゃない?」 「そんな事・・・」 「私の趣味は知ってるでしょ?だったら安心じゃない」 まりなはなぜか、おじさま趣味なのである。昔からそうなのかは分からないが、少なくとも初めて会ったときからそうであった。 「でも・・・」 「わかったわよ、諦めるわ。でも、結婚式には呼んでよね」 「結婚って・・・まだわからないよ・・・」 急に弥生の元気がなくなった。 彼氏との間に何かあるのだろうか・・・? 「まあいいって、それより出かけるわよ」 「出かけるって、何処に?」 「いいからさっさと着替えなさいよ」 まりなに急かされながら、普段着を着ようとする。 「弥生、だめよそんなんじゃ」 と割り込んでくると、衣装箪笥を荒らして服を引っ張り出した。 「弥生ってホントに地味ね。もっとこう男達を獣にするような服は無いの?」 「余計なお世話だ。私は普通でいいんだよ」 「そんな事言ってる女が、そのうち豹柄の服を着たりすんだから」 「そんな事はないさ」 他愛の無い話の中にも未来は潜んでいるものである。 「な〜んか今ひとつね。よし、私のを貸してあげるわ」 「えっ?」 まりなは返事も待たずに弥生の手を取ると、自分の部屋に連れ込んだ。 「ちょっと待っててね」 一人でクローゼットの中に入ってしまった。 「それにしても・・・」 (何にもないな・・・) 口に出すと地獄耳のまりなに聞こえるので心の中でそっと呟く。 部屋の構造はほぼ同じであるが、同じ部屋とはとても思えない。 テレビにステレオ、ガラスの台に電話が置かれている。それだけである。 残りの注目点は、一人暮らしなのに3人は充分に寝れるキングサイズのベッドがあり、これが部屋の一角を占拠している。 その他には、生活に必要な小物がいくつかあるだけである。 とりあえず、ベッドに腰を下ろす。 シーツはクシャクシャになっていて、その上には下着が脱ぎ捨てられている。 「まったく・・・」 外ではキビキビしているまりなだが、部屋に戻ると一気に気が抜けてしまうらしい。 そのまま少し待っていると、まりなが洋服を抱えて戻ってきた。 「おまたせー」 洋服をベッドの上に並べると、弥生と服を交互に見ながらいろいろと検討を始めた。 「あのな、まりな・・・」 「ちょっと待って、今いい所なんだから」 何がいい所なのかはほっといて、黙っておくことにした。 「う〜ん、やっぱりこれね!」 まりなが着ている服と似たデザインの物を選んだ。 「さあ弥生、これを着て」 「でも、まりなのサイズは入らないかもしれないぞ?」 「大丈夫だって。ほらほらぁ」 半ば諦めて着替える事にした。 「弥生、どう?」 まりなが見る。 「似合ってるわよ、弥生」 まりなの喜びとは反対に弥生は沈んでいた。 「どうしたのよ、暗い顔して?」 「これ見て・・・」 弥生の指差した先には、スカートのファスナーが途中までしか上がっていなかった。 「そのくらい大丈夫よ。上着の陰に隠れるんだから」 「でも、途中でスカートが落ちちゃうじゃないか」 「そのくらいはサービスよ。さあ出かけましょ!」 まりなはさっさと玄関に向かう。 「ちょっと待てよ、まりな。どこに行くんだよ」 まりなの後を追う。 「それは途中で話すわ」 こうして二人はセントラル・アベニューへと出かけたのである。 ◆ セントラル・アベニューへの道の途中。 「まりな、そろそろ説明してくれてもいいだろ?」 弥生はいい加減、頭にきていた。 「分かったわよ・・・」 仕方がないという仕草をする。 「私が一晩で考え出した計画。その名も“ダンディおじさまラブラブゲット大作戦”よ」 腰に手を当てて、もう一方の手をビシィっと天に向けた。 「はあ・・・」 また始まった。まりなは思いつくと即行動タイプでいつも振り回されてばかりである。 しかし、行き当たりばったりなのに最後は良い結果を生むのがまりなのすごい所だと思う。ただでは転ばないというのがぴったりである。 「それで、そのなんとかって作戦は何をするんだ?」 「なんとかじゃなくて、“ダンディおじさまラブラブゲット大作戦”よ」 「わかったから・・・さっさと説明してくれ」 まともに付き合っていると頭が痛くなってくる。 「ダンディなおじさまって、そこらに転がってると思う?」 「いいや」 「だったらどうすれば良いと思う?」 「さあね・・・よくわからん」 両手を広げて見せた。 「ふふふ・・・居なければ探せばいい。だけどそこらには居ない。だったらこっちに引き寄せればいいのよ」 「どういう意味?」 「ダンディなおじさまの代表といえば、ヒロミGO。ということは・・・」 「という事は・・・ってまさか・・・」 「そのま・さ・か。路上ゲリラライブよ!」 大きく宣言した。 「ちょっと、まりな。恥ずかしい・・・」 すれ違う人たちは一様に振り返る。 弥生はまりなを引っ張って無我夢中に走ったら、センラル街の中央に出てしまった。 「弥生も度胸あるわね、ここでやろうなんて」 「へ?」 二人はセントラル街でも人気のスポットである、中央噴水の前に居たのだ。 「じゃあ早速・・・」 まりなは、どこから取り出したのかマメカラ(※1)を持っていた。 「ちょっと・・・本気か?」 「もちろん!」 まりなは本体を持ち、弥生にはコードの付いたマイクを渡した。 「何を歌うんだよ、まりな」 「女二人組で歌うといえば、あれしかないじゃない」 女二人組で歌う。まりなと私。スーパーミニを穿いたセクシー系のお揃いの服といえば、 「ピンク・・・」 弥生が続きを言おうとすると、まりなが制して“みなまで言うな”という表情をした。 そして、スイッチ・・・ON! 流れ出す音楽・・・。 UFO・サウスポー・ペッパー警部・・・。しかし、弥生の頭に浮かぶメロディーと耳から聞こえる曲は全く違っていた。 「ちょっと、何よこの曲?」 すでにイントロが始まっているので小声で聞く。 「何って決まってるじゃない、“愛が止まらない”よ」 「何よそれ」 「何ってWINK(※2)よ」 「ういんく?」 聞いたことの無い単語が並ぶ。 「いいから、これ見て歌って」 まりなが歌詞カードを渡した。普段から持っている物らしく、紙はよれていた。 「・・・car,radio流れる、切なすぎるバラードが、友達のライン、壊したのぉ〜♪」 まりなが歌いだし、目で「次は弥生よ」と合図する。 「煌く、星座が、二人を無口にさせてく、重なり合った目の、甘い罠ぁ〜♪」 もう開き直って歌うことにした。 ただでさえ人の集まる場所でいきなり歌いだしたのだから、二人は一気に囲まれてしまった。それでもまりなが構わず歌っているので、それに合わせて歌った。 周囲から歓声が飛ぶようになり、やじに混じって「サインしてぇ」等という声も聞こえる。どうやら新人歌手とでも見られたのかもしれない。 確かに、この過激な衣装では一般人扱いされなくても仕方がない。 歌もそろそろ後半に入ろうとした時、人ごみを掻き分けて制服の警官が出てきた。 「こらこら、今すぐに中止しなさい!」 警官が詰め寄ってくる。 (ちょっと、どうするのよ・・・) まりなの方をちらっと見ると、自信ありげに頷いた。 まりなは歌を続けながら警官の前に行くと、胸から何かを取り出して見せた。 「こっ、これは失礼致しました!」 警官は急に畏まると、敬礼をして行ってしまった。 まりなは振り返ると、「大丈夫だったでしょ?」とウインクした。 こうして、邪魔されることなく歌は進み、最後のフレーズまで来た。 私のパートの時にまりなが耳打ちする。 「弥生、良さそうなのを見つけたわ。最後に一発皆の気を引いて、その間に私が抜け出すから」 (ちょっと待てよ、何をすれば良いんだ?それに私はどうやって抜け出せば良いんだ?) 目で必至に訴えかけるが、 「じゃあ弥生、お願いね」 と全く届いていない。届いていないのか、無視しているのかは判断できないが・・・。 ともかく、最後のフレーズが終わり音が消えていく。 周囲はすでに拍手喝采の準備をしている。 「今よ、弥生!」 (もう、どーにでもなれ!) 目を閉じて、前にテレビで見た格好いい決めポーズをしてみせた。 「「・・・・」」 辺りがしーんと静まり返った。 (何?どうしたんだ?) 拍手喝采は起こらず、周囲の息を呑む空気を肌で感じる。 「・・・・」 (ん?肌で感じるって・・・なんかこう、下の方がすーっとする様な・・・) 下を見て目を開けると、スカートが見事に落ちて、下半身が丸見えになっていた。 助けを求めようと、まりなの方を見るとそこに姿は無かった。 「うそ・・・でしょ・・・」 中央噴水の正面で、スカートが落ちたままで立ち尽くす弥生・・・。 次の瞬間、若い男が弥生めがけて飛び掛って来た。 「きゃぁ!」 弥生の悲鳴を引き金に、中央噴水周辺で乱闘騒ぎに発展し、暫く収拾がつかなかった。 この事件は、夕方6時のニュースで報じられ、弥生のパンツ姿が全国のお茶の間に流された。女性ニュースキャスターも笑いを堪えるのが精一杯らしく、声が震えていた。 また、弥生は謎の女性シンガーとしてテレビ局に問い合わせが殺到したらしいが、それは本人の伺い知れない事である。 ◆ 弥生がサン・マンションに辿り付いたのは、数時間後の事だった。 「くっそー、まりなの奴・・・戻って来たら文句を言ってやるぞ・・・」 弥生は見るも無残にボロボロになっていた。 急いでスカートを持ち上げたまでは覚えているが、どうやってあの囲みを突破したのか記憶が定かではない。 ともかく、掴まれ、叩かれ、殴られ、蹴られ・・・あらゆる暴力の渦から生還できたことを神に感謝するしかない。 しかし、その代償にまりなの服は破られている。 「まあいいか・・・こうなったのも、まりなの責任なんだからな」 重く感じる体を引きずって、自分の部屋に戻りそのまま眠ってしまった。 真夜中から明け方に向かう頃・・・。 弥生は部屋の中に人の気配を感じて起き上がった。 「誰だぁ〜?小次郎かぁ〜?」 半分寝ぼけている。 「ううぅ・・・」 すすり泣く声が聞こえる。 「なんだ、まりなか・・・まりな!?」 眠気が一気に吹き飛んでまりなに掴みかかる。 「まりな、お前のせいで私がどんな目にあったか・・・ってどうした?」 まりなは酷く落ち込んで泣いている。その姿に怒気も失せてしまった。 なかなか話そうとしないまりなから、根気よく聞きだしたのが以下のとおりである。 まず、中央噴水で見つけたダンディおじさまと食事に行って、そのあとホテルのバーでお酒を飲みながら色々話したらしい。 その後、どちらからともなく部屋に誘い、求め合った。 ここまでならば、まりなと絶交してもいいくらいなのだが、この次である。 何度か求め合った後、相手から妻と子供の話をされて、お金でこれからも付き合いたいって言われたらしいのだ。 まりなは、そのお金を投げ返してそのまま帰ってきたのだ。 以上を話し終わるとまりなは勝手に寝てしまった。 「まったく、仕方ないな・・・」 まりなを自分のベッドに運ぶと、そのまま寝かせてやった。 「愛が止まらない・・・か」 まりなの寝顔を見ながら呟いた。 まりなは恋多き女で、沢山の人と付き合っては酷い別れも経験している。それでも恋を止めたいとは言わないのがまりなである。 人を愛する心は誰にも止められないもんね・・・。 失恋するたびに私の部屋に来ては、一人で話して寝てしまうのである。そして翌日にはいつものまりなに戻っている。 「まっ、いいか・・・」 まりなの幸せそうな寝顔を見ていると、許したくなってしまう。 「ふぁ〜、私も寝ないと。明日もパパと小次郎の面倒を見ないとね・・・」 まりなを端に寄せて、隣に寝る。 「はぁ〜、誰が私の面倒を見てくれるんだろう・・・」 見えぬ未来に一抹の不安を抱えながら、眠りに落ちていった。 ◆ 次の日の朝。 弥生が目覚めるとまりなの姿は無く、その代わりにメモが残されていた。 弥生へ また迷惑かけちゃったみたいね 今回の“ダンディおじさまラブラブゲット作戦”は 失敗に終わったけど、次こそは必ず成功させるわ そのときにはまた協力してね まりな 「まりなの奴・・・」 自然と笑みがこぼれる。 「さぁてと、今日もがんばろう!」 カーテンを開けて朝日を受けながら思いっきり伸びをする。 また忙しい毎日が始まる。 パパと小次郎と私・・・。 いつまでも一緒にいられれば良いと思う。 「きっと大丈夫だ、弥生」 自分にそう言い聞かせて、桂木探偵事務所へと向かう弥生であった。 おわり・・・? 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内調本部・・・。 「本部長、どうしてあたしの小説は載らないんですか!!」 まりなが“バンッ!”と机を叩く。 「ま〜りなく〜ん。“ダンディおじさまラブラブゲット大作戦!”なんて小説載せられる訳ないじゃない。少しは僕の立場も考えてよ。」 本部長は困り顔である。 「どうしてですか?正当な理由が無いと納得できません!」 もう一度机を叩く。 「正当な理由って言ったってねぇ〜」 本部長はどうやってまりなを宥めるかを必至に考えていた。 「本部長!」 さらに詰め寄るまりな。 「・・・そうだ。まりなくん、昨日はセントラル街で派手にやったそうじゃないか・・・」 本部長の起死回生の一発である。 「それは・・・」 さすがのまりなも気まずい雰囲気である。 「今朝も大変だったんだから〜。警察庁のお偉いさんから抗議文が来るわ、上からは部下の監督がなってないって言われるしね」 「でも、それとこれとは別じゃあ・・・」 「良いんだよ別でも。その代わり3ヶ月の謹慎処分に加えて一年間の減給で良ければね」 「そんなに!酷すぎるんじゃないですか?」 「職権乱用という事らしいね。僕にも立場というものがあるしね・・・」 「分かりました!」 まりなは怒ったまま出て行ってしまった。 「ふ〜、なかなかどうして大変だねぇ〜中間管理職ってもの・・・」 ヒゲの本部長は、溜息をつきながら受話器を手にした。 内調ビルから出て外の空気を吸い込むと、怒気も薄れていった。 なんだかんだと言っても自分を理解して使ってくれている本部長には感謝せざるを得ない。今回の件でもかなり手間を掛けさせたに違いない。 「まあその分は、仕事で返すわ」 任務達成率100%を誇る1級捜査員、法条まりなは今日も犯罪に立ち向かって行くのであった・・・。 語句説明 ※1)マメカラ ハンディタイプのカラオケで、テープをセットすればどこでもカラオケ気分になれるす ぐれもの。ちなみに、まりなのもっているのは、デュエットが出来るタイプ。 ※2)WINK 89年に“愛が止まらない”でヒットした女性二人組。 さっちん、しょうこちゃんの愛称で人気があったが、現在活動停止中。 ちなみに“淋しい熱帯魚”は学校のフォークダンスで使われた思い出の曲。 |