−平穏な日々−

長い悪夢の様な事件だった。
旧エルディア情報部の画策は豪華客船トリスタン号と共に海底深くに沈んだ。
μ-101・・・真弥子と共に。彼女はどうなったんだろう・・・。
そんな事を港へ戻る救助船の中で考えていた。
『ポーン・・・』

≪間も無く港に到着します。お疲れ様でした。≫
船内放送が流れ俺は甲板に上がり港の方を見た。
港では弥生や恭子が心配そうに待っていた。
五分くらい経ちようやく救助船が着岸した。
俺は救助船から降りた。降りたと同時だろうか、二人が駆け寄ってきた。
弥生が俺の目の前にいる。弥生は目に涙を浮かべながらこう言った。
「おかえり・・・小次郎・・・。」
そして俺の胸の中に飛び込んできた。
「ただいま、弥生・・・。」と、俺は弥生を暖かく抱きしめた。
弥生は今まで泣くのを我慢してたのだろうか、俺の胸の中で泣き始めた。
俺は弥生を強く抱きしめた。
ふと、顔を上げると恭子が立っていた。
恭子は少し涙を浮かべながらも微笑んでいた。少しやきもちを焼いている様に見えた
のは気の所為だろうか・・・。
「おかえり、小次郎。」
恭子は微笑みながらそう言った。
「あぁ、ただいま。さぁ、事務所に帰ろう。」
俺はそう言うと、弥生の肩を抱き皆で事務所に向かった。

『ガチャ・・・キキィ・・・・・・』

事務所の玄関を開けた。
いつもの風景だ。相変わらず汚い。でも安心できる場所だな。
俺はそんな事を思いながらリビングに降りた。
まりなとプリシアは内調(内閣調査室)に行ったので此処には俺と弥生、恭子の三人 しかいない。
弥生がコーヒーを入れてくれた。俺はコーヒーの入ったカップを口へと運んだ。
ズズッ・・・
コーヒーを飲みながら俺は「生きて帰って来れたんだな・・・。」と思った。
正直、諦めかけた時も有った。もう駄目だと思いそうにもなった。
だが弥生や恭子・・・置いて来た人間を思うとそんな弱音は吐いてはいけない! と 自分に言い聞かせた。
そして俺はこうして事務所に戻って来た。
二人とも、コーヒーを飲みながら安らぎの顔を見せている。
ハッ、と弥生が顔を上げた。
「ねぇ、小次郎。この女性は誰だ?」
と、弥生が恭子の事を聞いて来た。
「氷室か? 俺の事務所の新所員だぞ。」
俺は正直に答えた・・・が。
「ほんと〜に、それだけか? 何か私に隠してるんじゃないのか?」
疑わしそうに聞いて来た。俺はギクッ、としながら(コイツ、妙にするどいぞ・・ ・)と思った。
ふと恭子の方を見る。笑うのを抑えている様だった。コイツ、楽しんでるな・・・。
「た、ただの所員だって。」 少しドモってしまった。ヤバイ・・・。
「何をドモってるんだ? まさか・・・」
弥生の顔に怒りの色が見えた・・・。ヤバイ!! 殺されるっ!!
そう思い逃げようとした・・・が、遅かった。

バッチィ〜〜〜〜ン!!!!

弥生に思いっきり平手打ちを食らってしまった。痛い・・・。
「小次郎の馬鹿野郎!!」
弥生はそう言うと事務所を出て行った。静けさだけが残る。
「フフ・・・ハハハ!! 痛そうだね!」
恭子が声を掛けてきた。
「おいおい・・・楽しんでるんじゃないぜ・・・。こっちは本当に痛かったんだぞ・ ・・。」
俺はそう恭子に言うとコーヒーカップを片付けた。
「まぁ、いいじゃない。私が口出しても小次郎はぶたれてたわ。」
「確かにそうだな・・・。あー、痛い・・・。」
俺はぶたれた頬を撫でながら椅子に座った。
「まぁ、何はともあれ無事に帰って来れたんだ。よかったとするか。」
「そうね。これからヨロシクね。チュッ!」
恭子はそう言うとキスをしてきた。・・・弥生に見つかったら今度こそ死ぬぞ、と心の底から思った。


数日後


[あまぎ探偵事務所]もようやく軌道に乗り始め依頼が増えてきた。
今は恭子と二人でせっせと依頼をこなしている。
あれから弥生とは・・・言わなくても分かるだろう。
会いに行っても冷たくあしらわれる。その割にはマンションの鍵を返そうとしても受け取ってくれない。
相変わらず嘘が下手だな・・・と思いながら俺は[桂木探偵事務所]を出る。
今やこの業界では弥生の[桂木探偵事務所]と俺の事務所がトップになった。
俺も弥生も忙しくなって来た。まぁ、お互い切磋琢磨して大きくなるんだろう。
恭子もこの仕事に慣れて来たのか仕事を難なくこなしている。優秀な助手だ。
まぁ、色々ドタバタは有ったが平穏な日々を過ごしている。
「こじろぉ〜、仕事してよ〜・・・」
ふぅ・・・忙しい事はいい事だ。

オヤッサン・・・弥生は頑張っているぜ・・・。心配しなくても大丈夫だ。
あの世でシリアと仲良く暮らしてくれよ・・・、と思いながら俺は眠りに就いた。



バッチィ〜〜〜〜ン!!!!


「こじろぉ〜、仕事しなさいっ!!!」


ふぅ・・・結局こうなるのか・・・トホホ・・・


Written by Kuon Ichijo
Update 1998.09.08

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