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/*/ 第18幕 若宮が善行の部屋をノックしたとき、善行は、自室にて家に送り返す荷物を選別していた。 両親に対する手紙を書き、ついでに遺書もしたためるつもりだったが、中々洒落た文句を思い付かず、まだ何も書いていなかった。 「どうぞ」 海兵なまりで、若宮は直立不動の姿勢のまま言った。 善行は立ち上がった。 「ありがとう、戦士」 若宮は帽子掛けから善行の帽子を取ると差し出した。 「素子……」 原は、涙を拭いた。笑ってみせる。 「心配したんだから。心配したのよ」 まずいと善行は思った。彼女が校長の件に関わっていると思われてはたまらない。 「こんなところまで一人で来たんですか」 善行は微笑んだ後、眼鏡を指で押して表情を消した。 「すみません。でも、僕は忙しいんです」 「……休みですが忙しいんです」 「休みなら休みでしょ?」 善行は赤面した。面接室に立っている歩哨は知らん顔をしているが、顔は茹蛸のようだった。変人どころか変態の噂が立つのは必至だった。善行は席を立つ。 罪のない表情で原はにっこり笑った。嬉しそうに腕につかまってくる。 /*/ なるべく人通りの多い所を通った。 原は、普段そうやって居たように幸せそうに嬉しそうに、時々恥ずかしそうに表情を変えながら大袈裟に手を動かし、善行の腕に抱きついた。 黙って舞鶴に出てきたことを、原は何も言わなかった。 善行は原の横顔を見ると、つかの間だけ手の大きい女を思った。 「なぜ、黙って舞鶴に出てきたことを責めないんですか」 「近所のお姉さんも、同じことされたから。その後一生後悔しているって言ってた。それで、男は勝手だと言うのは簡単だけど、それを言う女はクズだと思う」 原はそう言って笑った。少しはにかんだ笑いだった 勘違いか。 いや、あまり勘違いでもないか。戦争に行くのは事実だ。 「私はそう思いませんよ。好かれていることを自覚するのは恐い人もいる」 善行は、それを聞いて女の敵は女だなと思った。 原は不意に照れて微笑むと、善行の眼鏡一杯に顔を映した。 「でも、それ聞いて安心した。あの女に取られたかと思った」 /*/ 夜中になって善行は、原と別れた。 「似合っているけど、似合ってないわ」 善行は背筋を伸ばした。 そして笑って敬礼した。 「行ってまいります」 |
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