舞い降りた幸せ

人は言う。
忘れるから思い出すことができるのだと。
それは真実。
神様は人間の記憶というものを完璧ではなくした。
それは時に喜びであり。
時に悲しみである。

桜散る頃。
俺は上野公園を歩いていた。
巴里を去り、既に1年という月日が流れていた。
あの頃の記憶は今でも俺の中に息づいている。
そう思っている。
けれども、それは少しずつ俺の脳裏を蝕んでいく。
忘れたくない。
忘れたくなどない。
でも・・・俺は君の顔を思い出せなくなって行くのが怖い。

「大神さん、ここにいらっしゃったんですか」
後ろから声を掛けられ、振り向くとそこにはさくらくんが立っていた。
「ああ、桜を見ていたよ」
だが、もう桜の季節は終わりに近い。
「桜、ですか・・・」
さくらくんが首を傾げるのももっともだろう。
すでにほとんどの桜は散ってしまった後なのだから。
しかしすべての桜が散るまでその姿は美しいものだと思う。
儚げで繊細な・・・君のような。
「そういえば大神さん、最近休日はいつもここに来ていましたね」
「そういわれればそうだね」
風が吹いていく。
また何枚かの花びらが舞った。
「桜、好きですか?」
「・・・・・・うん」
さくらくんは風になびいていた髪を押さえ、少し微笑んだ。
「待っているのですか?」
「? なにをだい?」
「くすっ、なにをでしょう」
そのまま、2、3歩後ろに下がる。
まるでダンスをしているような錯覚。
木々の間で花が舞う。
そのまま、軽くステップを踏んだかと思うと悪戯っぽく笑った。
「きっと、会えます」
「さくらくん?」
「だってこの場所で私達は出会ったんですよ」
ああ、そうだ。
花組の隊長に任命され、やってきた帝都。
桜の美しさに誘われて歩いた公園。
そこでさくらくんと出会ったんだ。
「ああ、そうだったね」
「だから、今度も、きっと」
もう一度見上げる。
青く広がる空の中に色づく桜。
ひらひらと舞い散りながら、地面に落ちた。
「私、もう行きますね」
「うん、ありがとう」
信じること。
願うこと。
俺はきっと君を想っている。
あの時交わした約束はずっとこの胸の中にあるのだから。

人は言う。
忘れるから思い出すことができるのだと。
それは真実。
神様は人間の記憶というものを完璧ではなくした。
それは時に悲しみであり。
時に喜びである。

だからこそ、その時の感動は計り知れない。
大きな風が吹いて最後の桜が舞った。
思わず目をつぶり、おさまるのを待つ。
そして再び目を開けた時には
きっと幸せが待っているのだ。

「お久しぶりです。大神さん」
「・・・・・・・・・花火くん・・・会いたかったよ・・・」

〜END〜

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