| . |
魔導の決め手?そうだな、あの男なら、ただ笑うだけだろうが。 <ロックシンガーの言葉>
「そこまでだ。お若いの。」
なんと頼もしい背教者か。スズランは、一瞬だけ、異教に惹かれた。 誰よりも誇り高いしわ深い顔、年輪の刻まれた目尻の彫りが、目の動きに合わせて、たしかに細められる。
回るステッキ。
その男は、優雅だが一気に走りながら、誰にも真似の出来ない凛々しさで、指先から光の軌跡を伸ばしていった。
男が通り過ぎた後で、人戦車が次々と破裂した。心臓が破裂したのだ。 ステッキが、静かに少佐の喉元に突きつけられる。
男は、首を軽くついて少佐の頭を粉々にした。 「まだやるかね。」
「いかんなあ、忠義もないとは。」
スズランは、しばらくそれを眺めた後で、我に返った。
「…」
その姿が、たいそう似合って、スズランは視線を逸らした。
スズランは、汗を浮かべたまま目を大きく開けると、次の瞬間に毛布を剥いで一気に起きあがった。 ベッドの、きしむ音。 現実に気づき。下を見て、手で髪をかきあげながら、自分自身の膝を抱く。
子供を捕まえては、兵士に徴発するのが諸君らのやり方かね。 思い出した視線が痛くて、不覚にも涙が、出そうだった。
シルクのキャミソールが、衣擦れの小さな音を立てる。
それに、女性が血で汚れるのは好みではない。やつがれは年寄りでな。
スズランは、小さな声で、神々への祈りの文句を口にした。
男の、荒い息。安堵の声。
隣の部屋。 どうしてこう、あの男は、人に嫌がらせするのだろう。 膝に顔をうずめて、落ち込むスズラン。 また男の声がして、スズランは、動きをとめた。
無表情に、つぶやく。
シルクのキャミソールのまま、剣を取った。
「くぅ、きくー。」
へなへなと空いたドアのへりにすがりながら、安心した、泣きそうな流し目でスズランは男を見た。怒りが、瞳に宿る。
「また騙された。何回目かね。」
握りこぶしを握るスズラン。 「ふむ。寒いのにその格好は大変だろう。紅茶を。」
スズランは、自分の胸を、出来の悪い息子を憐れむ目で見られた。
涙が出た。 自室につくまで、誰も廊下に出ていなかったのだけが、救いだった。
コルセットだ。コルセットを、つけなければ。
鎧下とほぼ同じ作りの無骨なコルセットをぎりぎりまでしめつけて、スズランは、毛布をかぶった。 痛かったが、今度は、寝れそうな気がした。
−了− |