| . |
「ありがとうございます。神官様。」
マディは、フードをかぶったままでそう言うと、右手の指で虚空に聖印を描いた。
「どけ、急患だ! …すみません。神官様。」
右手をかかげ、光を集める。 思ったよりずっと深い傷口に、手をあてる。
三機の人戦車は、腰ほどのひまわりを踏み潰し、かきわけながら、間隔を開いて歩く。 手信号。 うなずき。
中央の一機が、背負った火炎放射器の銃身を向けた。
残りの二機が、ライフルを撃った。 下顎から上を、吹き飛ばされながら、男は、それでも二歩は歩いた。 人戦車達は、優れた感覚器を開いて、次なる目標を探し始める。
ダンの唇からゆっくりと自分の舌を引き抜くと。 粗末な衣服を着た少女は、大切な何かのように、ダンの頭と上半身を抱きしめた。
指先に感じるダンの味は、汗と、血。
近づいてくる。羽蟲のささやきに、少女は泣きそうになった。 粗末な衣服を着た少女は、ダンの重さによろけながら、懸命に細い腕と足に、力をこめる。 生きていて、欲しかった。
「少佐。」
「ほぼ、掃討し終わりました。」
長い金髪の、12歳の少女がひまわり畑の中で、幸せそうに微笑んでいたのはいつか。
マディは、手際よく治療を続けている。
目を細めるマディに、ドアを開けて入ってきたのは、金髪の少佐だった。
「とどめをさしたのですか。」
非難がましい目を向けたマディに言い訳するように、リシャスの部下は口を開いた。
「階級で呼べ。…本当に神とやらが居るのなら、そんな天界の工業製品を用いずに、世界を救ったらどうだ。一人も殺さずに。」 「…」
リシャスは、それだけ言うと振り向いて、部屋を出た。
そんなことを言うはずではなかったのに。 リシャスは、歯をかみしめると、若い神官の目を振り払うように足早に歩いた。
「も、申し訳ありません。神官様。少佐は、あ、いえ。お嬢様は、はじめて部下を殺されて、気が立っているのです。」
マディは立ち上がると、またフードをかぶった。 あの女は情報軍の少佐だった。顔を見られたのはまずかったと、そう考える。
「残党が、居るかもしれん。」
銃声。
粗末な衣服を着た少女は、至近にそんな声を聞いて、絶望をその瞳に映した。
次の瞬間には、ひまわり畑をかき分けて、兵士のところに走った。
「なんだ。蟲飼いの娘か! 驚かせやがって!」
倒れる音。はげしくせき込む音。 「倒れるな、馬鹿が!」
羽蟲が、集まり出してくる。 邪魔そうに蟲を払って、兵士はズボンのベルトを外した。 「趣味が悪いぞ。」
片方の兵士が、銃を向けた。
沈黙。 「行け。」
よかった。 そう思って、少女の頬に涙が流れた。 これで、あの少年が助かると。
シーン2 了 |