ひ ま わ り フ ロ ン ト ラ イ ン
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01

風が、嵐に変わりつつあった。

「リシャス様。」

「階級で呼べ。」
「…」

「はっ、報告します。」

硝子に映るのは、髪の長い女。鋭い目つきに、金の髪。

 後ろで敬礼した若い男は、この村で育った男だった。

「交戦が始まりました。暴徒どもは我々が居ることを知らなかったようです。
最初の攻撃でかなりの損害を受けた模様。」
「…ひまわり畑に追い込め。」

「…はっ、しかし…あそこは…」
「村に侵入されるよりはいい。」
 
 
 

 嵐が、くるな。

リシャスは、そうつぶやくと、自分で自分を抱いた。

-The heart of hydrogen-
  最初の心臓


02

 自分の背と同じくらいのひまわりの間。
 細身の体に、見た目よりずっと速い速度で走りながら、
ダンは、くやし涙を浮かべて回想する。


03

「馬鹿野郎、なんで匂わなかった!」
「だって曹長…こっちは風上で…」

 曹長はもう、ダンの言うことは聞いてなかった。
畜生とダンが嫌いな言葉を吐いて、銃を撃った。

 撃ちながら、下がる。視線を飛ばした。
「あのひまわり畑に逃げろ。お前はあっちの方に、派手に全力で走って逃げろ。」
曹長は村の外れの方を、余った左手で指した。
「でも…」
「拾ってやった恩を忘れたか! 犬っころ!」
「忘れてない、忘れてないよ!」

 銃で狙われるのも瞬間的に忘れて、ダンはそう叫んだ。
長い耳が、揺れた。
敵の眉間を一人ぶちぬいて、
「曹長。こりゃ略奪どころじゃねえな。」
「じゃあ行け。」
「分かった。」


04

「向こうに一人いるぞ!」
「撃て、野盗どもを一人も逃すなっ。」

(死にたくない、死にたくないよ!)

 そう言いながら、それでもダンは曹長の言ったとおりに走った。
ひまわりより随分高い背の農民が…もっともダンにすれば、大体の大人は背が高いのだが…が動く茂みの波の先頭に狙いをつけた。

 銃光。

ダンの口先から、悲鳴が出た。脇腹から血を噴き出し、ひまわりをいくつか潰すようにして、飛ばされる。
 そして、落ちた。ひどく一度痙攣すると、唾を吐きながら哀れっぽい声をあげた。

「やったか。」
「腹をぶち抜いた。一応確認しろ。まて! あそこにもいる!」
「くそ! お穣様のひまわり畑を!」
 


05

「人戦車(マン・タンク)を出す。向こうにも軍人崩れが居る。」
「はっ。」

リシャスは、走行トラックの荷台からゆっくりと降りてくる3人の部下を見た。落ちくぼんだ目で、敬礼する彼女の部下達。
 武器を受けとっては、走りはじめる。

 リシャスは振り向いた。
「…私自身も出る。この風だ。軽いチップ弾では当たらん。」


06

 曹長は、拾った犬と徒党を組んだ仲間達とは別の方に、ひまわりを揺らさないように動きはじめた。

「あの犬も、最後にゃ役に立ったじゃねぇか。」
 


07

 粗末な衣服を着た少女は、少しだけ頬を赤らめると、ひまわりの花の中から現れた。
羽蟲が、まわりには何もないと少女に伝える。

 倒れている同じ年頃の少年に近付く。手で触れると、汗とおひさまの味がした。
揺らす。

 もう一度。
 

口を少しだけ開けて、声にならぬ息を出すと、少女は、少年に栄養が足りないと確信した。
 見る見る痩せはじめていたからだった。

 抱き寄せ、ダンの頭を抱える少女。

 自身も痩せぎすな少女は、周囲を不安そうに一度見ると、目をきつくつぶって少年の唇に舌を入れた。

 

蟲の匂い。そして、甘い味。

 ダンは、少しだけ瞳を開けると、少女を見た。

そして、気を失った。


シーン1 了