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俺の機体の上に優雅に乗って、そのバルキリーは、微笑んでみせた。
開放型風防から、出した顔から、目を細めて、ゴーグルをあげる。 「人が天空を飛びたくなるのが、そんなに悪い事か?」
手信号で、離れろ。 傷ついた顔で、アテナンタは、機体から飛んだ。
2度、機体を叩いてやって、ゴーグルを下げた。 機体の心臓が、尻の下で動いている。
冷たい、どこまでも冷たい空気を吸って、俺は幸せな気分になった。 空を己の意志で飛ぶ事が出来る者だけが、確信する、この気持ち。
心臓が、呼吸口から火より熱い息を噴いてスロットルに反応した。
俺がバルキリーなら、どんなによかったか。
もっとも後悔は、もう10の時に済ませた。諦められなかったから、今の自分がいる。
「出撃は、2日後、3時ちょうど。」 ミーティングの言葉は、予想通りだった。普段、バルキリーが絶対に飛ばない夜間なら、数が少なくても、侵攻することが出来る。
誰かが、手をあげた。
低速の練習機を使う理由は、それだったか。
革で出来た兜を小脇に抱いて、ブリーフィングルームを出る。 一瞬だけ、頭が痛くなった。
大股で歩いて、二発ほど陸兵をなぐって、アテナンタの腕を取った。軽すぎて細すぎて、やわらかい腕。
ウインクされて、仲間と、すれ違うようにして、歩く。こりゃ一週間はおごりっぱなしだ。 胸までしかないアテナンタは、ずっと前に死んだ、小さな妹のようだった。 「なんで…翼を持ってる奴が、地べたをはいずりまわってるんだ。」
バルキリーは、子供すぎて、困る。好意も、嫌悪も、分かりやすすぎて、時々それが、無性につらかった。
「羽根は、大丈夫か。あいつらは最初に羽根を傷つける。」
アテナンタは、小さくうなずいた。
「もう地上に降りてくるな。ここは、飛べない人間が空を見上げる場所だ。」
アテナンタは、思いっきり真意を隠しているつもりで、ふてくされたように言った。
大体こいつらに作戦だとか飛行機の整備だとか、飛行の許可だなんて、分かるわけもない。 だんだん気分が高ぶってきたのか、アテナンタは、肩を震わせながら大粒すぎる涙を落とした。
「…涙を拭け。」
ここで抱きしめたら、俺の人生は決まるな。
いつのまにか、喧嘩が収まって、こちらをみんなが、見ている。
しばらく考えて、学生でもいいかと思った。
空の上なら、大人である必要はなかったし、夫婦で戦争するのも、空でなら愉快なことだと、そう思ったのだった。
羽根を痛めないように、腰に手をまわす。
アテナンタが、目をつぶった。 終わり。 |